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協奏曲の聴き方
いわゆるバロック期チェンバロ時代の協奏曲とフォルテピアノ誕生以降の協奏曲について書きます。
ときどき「チェンバロ協奏曲を聴きに行ったのですが、チェンバロの音が小さくてオーケストラに埋もれて聴こえませんでした。ピアノコンチェルトのようには引き立たない楽器ですね。」というご意見を伺います。
実はお恥ずかしいですが私も30数年前にはそう思っていました(笑)。
ベートーヴェン、シューマン、チャイコフスキー、グリーグ、ラフマニノフなどのピアノ・コンチェルトやメンデルスゾーンのヴァイオリン・コンチェルトなどを身近に感じていた私には、チェンバロの音がオーケストラに完全に融け合って、辛うじて独奏部分で存在を納得できるチェンバロ・コンチェルトをはじめて聴いた時には物足りなさを感じたものです。
しかしその後、バロック音楽やその楽器のことを知るようになって「協奏曲」に対する考え方が変わりました。
オーケストラに溶け合って聴こえないと思っていた部分も、実は音楽を豊かに盛り上げていて、時には通奏低音の役目にまわって音楽を支えたり先導したりして、楽器の個性や能力を最大限に引き出していることがわかりました。楽器の限界まで挑戦的な使い方になっていることもあります。
つまり「協奏」という考え方が違うのです。オーケストラとソロ楽器が対等の立場で、ソロになったりトゥッティになったり旋律になったり通奏低音になったりという、対比と融合がみごとに行われるのが協奏曲なのです。
ですから、華々しいソリストとその他のパートのオーケストラというような思惑で聴いてしまうと、「引き立っていない」という感想になってしまいます。
チェンバロの後期には莫大な楽器が作られて、むしろ大きな音が売り!だった時期があります。そこへ誕生してきたピアノという楽器は、もともと「グラヴィチェンバロ・コル・フォルテ・エ・ピアノ」という名前で、現在では「ピアノ」=「小さい音」という意味の名前に省略されました。大きな音はすでにチェンバロで出せていたので、デリケートな小さい音の出せる楽器として認識されていったのですね。
この小さい音の出せる楽器が、今やオーケストラに対抗して華々しい協奏曲を演奏するようになったのですから面白いですね。
バロック時代の協奏曲はチェンバロ以外のものも含めて「ソロ協奏曲」「合奏協奏曲」や「宗教協奏曲」など、様式と編成などによって分類されています。この分類を参考にしながら、オーケストラとの対比と融合を聴いてみると楽しいですよ。
2013年3月4日
カテゴリー: 鍵盤楽器
楽器の個性を見分ける
最近は様々な楽器を見たり触ったりできるようになりました。
多くの方がピアノだけでなくチェンバロやフォルテピアノに触る機会もあるのではないでしょうか。
そこで今回は、そのような機会にそれぞれの楽器の個性を見分けるための項目について簡単にお話しを致します。
どの楽器でも一番大事なのは「音」です。音楽に必要な音とは何か、音が出ること、音が消えること、音が混ざること、音が躍動すること、音が響くことなどをあらためて考えながら、今まで聴こえなかった新しい音の世界を楽しんでいただきたいと思います。では、どんな部分で楽器の個性が判断できるのでしょうか。
それぞれの楽器について具体的なお話しをしましょう。
ピアノ
ヤマハやスタインウェイやベーゼンドルファーなどのメーカー名はご存知だと思います。それぞれのメーカーによって響板や裏側の梁が違います。アクションと言われるメカニックな部分も多少違いますが、音を出す機構は同じです。楽器の製作年代とどのぐらい弾き込まれているのかなどによって響き方や持ち味が変わります。また、楽器の全長や鍵盤の材質、響き弦の有無や響板の板目なども比べてみる対象となります。
さらに鍵盤に触れた時には、エスケープ(カックンと言う深さとその強さ)の具合や鍵盤の支点までの長さなどが指で感じられるので、一概に重い軽いと言ってしまわずに感触を確かめるといいと思います。鍵盤を押してからの発音の早さや音の返りも個性があります。
音としては倍音の響き方や高音と低音のバランスとか減衰や余韻の長さなど、その楽器の設計コンセプトを感じ取れる部分があります。フォルテからピアノへの変化におけるなめらかさなども個性の1つです。安易に自分の好みや慣れで判断せずに、その楽器が出したい音域や響きを汲み取った上で判断できるといいですね。
フォルテピアノ
次にフォルテピアノですが、こちらは1台1台がとても個性的なので、比べたり評価したりすることがとても難しいです。先ほども書きましたように自分の好き嫌いだけでは楽器の力量は比べられないので、製作家の意向を汲み取るようにしましょう。
まずはその製作家や代表的な工房を知って地域性も考慮に入れて、その楽器を使った主な作曲家は誰かというような下調べが必要でしょう。そして年代がかなり重要になってきます。製作年が10年違うだけで驚くべき発展が盛り込まれている場合があります。特に1800年代の前半は、制作方法から音域まで目覚しい進歩を遂げた時代なので、年代に注意してください。先に知識を入れてから楽器を見ると良いと思います。
フォルテピアノでの個性の一つに鉄が使われていることもあげられます。フォルテピアノは表面から見えなくても必ずどこかに鉄の部材が使われています。前に「ベートーヴェンは弦を切りながら弾いた?」の所でもお話ししましたが、この年代は弦の材質や強度が変わってきていますので、高い張力に耐えられるように鉄が使われているのです。どこにどの程度使われているかはそれぞれで違いますのでそれを知るのも楽しいですね。それぞれの製作コンセプトに従って、音の残り方や響きには本当に個性が出ています。音域とともに倍音の出方や残響の残り方、ハンマーの形状や材質によるアタックの違いなども判断材料でしょう。
ハンマーは外からは見えにくいですが、材質が皮なのかフェルトなのか、芯はどのぐらいの大きさなのか形はどうかなど、それぞれで違いの大きい部分です。
外側の造りもチェンバロに比べて重厚ですからその厚みや材質による響きに重量感を感じることもできるでしょう。
弦については巻き線が使われているかどうか、その場合どの音から下を巻き線にしているのか。1本弦の場合は真鍮か鉄弦か。1音につき何本の弦があるのかなどが個性となって音に現れます。音量については、修復や弾き込みによって変わりますので、音の大小ではなく響板や木枠が鳴っているか、金属と木の鳴りのバランスによる響きのほうを聴かれるといいと思います。
チェンバロ
さて、チェンバロはこれはもう多数の書物が出版されていますのでそちらをご覧になるといいですよ。1つご参考までに紹介しますと「チェンバロ-歴史と様式の系譜」久保田彰著(3800円+税)が株式会社ショパン社から出版されています。これはDVDブックなので音も聴けますし、多数の美しい写真とわかりやすい文章によって書かれています。チェンバロの造り方も見ることができます。チェンバロに詳しくなるならこの1冊から入るといいと思います。
音については弦をはじく爪や弦の種類によって、柔かくも硬くも強くも弱くもすることができるので、演奏曲や演奏場所によって爪と弦を替えることがあります。ですからコンサートなどでチェンバロを聴く場合に、前に聴いたときと音量や質感が違うということはよくあることです。奏者が弦を張替えて爪を取り替えれば当然音質や音量が変わってきます。
それから、爪を変えると鍵盤の感触も変わります。演奏するための力の駆け具合も変わってきます。チェンバロは手作りの楽器ですから、爪が硬いと思ったら柔かい爪に取り替えればいいですし、音の鳴りをソフトにしたければ弦と爪を変えればかなりの変化が期待できます。響板や胴体の鳴り方は変えられませんが(響板の取替えや胴体の改修はすることができます)、弦と爪による変化はそれでも大きなものです。
ですから楽器個性の判断材料としては、音の残り方と減衰のしかた、共鳴箱としての胴体の響き方などです。金属の弦と鳥の羽軸と木枠の胴体のバランスが取れていることが良い楽器、あるいは良い調整ということになります。音は、鳴った瞬間から減衰を始めると途中でブルームという増幅が入ります。それからまたどんどん減衰していくのですが、ブルームのあとの減衰が早いのか遅いのかなどと、胴体の端まで響いた音が演奏者に返って来る感覚の違いなどで個性が測れると思います。またどこら辺の音域で心地よく響くように設計されているのかも耳で判断できる個性です。そして鍵盤数とともにレジスターやリュートストップやカプラーなどの装置による能力をどのぐらい持った楽器なのかということが個性につながります。チェンバロは弦を増減しなければ強弱はつけられませんが、レジスターとかカプラーなどによって、いくつもの鳴らし方で表現をすることができます。
鍵盤が1段か2段かということは、楽器の製作意図と演奏の目的によるものなので、2段のほうが立派だなどということではありません。もちろん高価にはなるとは思いますが。地域によって1段が多く使われていた所もあります。1段の楽器の素直で豊かな響きは、2段の楽器の多少複雑化した音の鳴りとはまた違う個性で必要不可欠なものです。チェンバロはこのように楽器の規模と胴体の鳴り方と、調整のしかたによって個性を判断することとなります。もちろん外側の装飾が美しいものが多く、これも地域性や年代を表してはいますが、やはり鳴りかたを聴いて判断しなければなりません。
コンサートやイベントでこれらの楽器に出会った時を想定して、実に大まかではありますが、楽器の個性を見分けたり楽しんだりする判断しやすい項目を書きました。興味がある方やこれから演奏しようとお考えの方は、是非とも楽器の中身についても調べられることを願います。製作方法や中の構造を知ることで演奏の楽しみも増幅していくことでしょう。
演奏する際には「自分の指に合っている、合っていない」などと言うことではなく、楽器が出したい音をまずは耳を澄まして聴きとってあげて、自分の指でそれをどう料理できるだろうかと考えてみてください。
2012年11月15日
初期ブロードウッド・ピアノを巡って(その2)
前回、ブロードウッド・ピアノの中身についてお話しするとの予告を書きましたが、細かな機構の1つ1つの解説はとても長い長いシリーズになってしまうので、とりあえず外から見える部分のことをお話しましょう。
弦の張り方
現在のモダンピアノは弦の長さを保ちつつ楽器の全長をある程度抑えたいために、太い低音の弦と細い中音域以上の弦の一部が〔×〕の形に重なるように張っています。これを交差弦と称しています。アップライトピアノも対角線のように弦を交差して張ってあります。
それに対して、チェンバロをやフォルテピアノでは弦をまっすぐに張り、全ての弦が平行に張られていることから、平行弦とよばれる張り方をしています。弦の長さがそのまま楽器の長さになりますから細ながーい楽器になります。それには駒を分割して長さを緩和したりもするのですが詳しくはまたの機会に。
そしてここでプチ・ラバルマンやグラン・ラバルマンの話しもしたい!!とひらめいたのですが、それもチェンバロのお話しのときまで我慢してとっておきましょう。
さて、話しを戻して、このブロードウッド・ピアノは平行弦です。低音が真鍮、中音以上が鉄の弦です。まだ巻き線は使われていません。したがって低音の迫力はもう少し欲しい欲求を感じます。
平行弦は一本ずつが響版の上の或る位置を独占できるので、純粋な響きが感じられます。
また、このピアノはすべての音に対して弦が3本ずつなので、調律ピンもたくさん並んでいます。
いくつか見える鉄の部品
白い四角いものが弦の上に整然と並んでいるのが見えます。これがダンパーです。その間に円盤状の鉄の板がはめ込まれています。弦の張力の高い楽器はどんどん捻れが生じるので、いずれ捻れた船底のような形になってしまうのです。チェンバロやクラヴィコードなどでは数例を実際に見たことがあります。ですから、それを防ぐために張力に対抗する部品をつけなければなりません。
チェンバロ程度の張力であれば、胴体の構造と木枠や梁で支えられるのですが、フォルテピアノの張力はさすがに木材では支えきれません。そこで鉄の板を貼りつけたり、鉄の支え棒を何本も入れたり鉄枠にするなどの改良が施されていきます。
あぁっ!ここで産業革命のお話しがしたくなりましたが、それも別の機会にして今はこのピアノに集中!!
とにかく弦の張力を支えるために、ブロードウッドは堅牢な木枠と一部分に鉄を使用して歪みを抑えています。
フェルトを重ねたダンパー
ダンパーは音の響きを止める役目をしています。この楽器の場合は数枚のフェルトを重ねただけのもので、頑丈ではありません。従って音の響きがしばらく残るという感じです。この音が残る具合と、どのように音が止まっていくかが演奏に大変重要な影響を及ぼすので、自分の楽器ならば色々実験してみたい所です。
モップ型、差し込み式などいくつかの種類がありますが、モダンピアノでは弦に沿った窪みのある頑丈なダンパーがしっかりと弦の上から押さえつけるようになっています。
【お願い!】
ハンマーやエスケープメントについてなど、ピアノとしては重要な部分の解説はまたの機会にいたします。(え~、そんな大事なことを後回しにするの?とお怒りの方もいらっしゃるかと思いますが…)
それで何を先にするかと言うと、実はThomas Attwoodという作曲家のEllen’s song : Ave Mariaという曲の話しです。この美しい曲をこの楽器で伴奏したくなりました。
しかし、私はこの曲の楽譜を持っていません。探しても見つかりません!
シューベルトのEllen’s song : Ave Mariaはとても有名な曲ですね。この曲の歌詞はWalter Scottという人の「湖上の麗人」という詩をドイツ語訳したものにシューベルトが曲をつけています。
T.Attwoodは、その元々の英語の詩にシューベルトより15年早く曲をつけています。T.Attwoodの作曲家としての評価は多少意見の分かれるところがあるようですが、ブロードウッドのピアノの音色に乗ったこの歌を生で聴いてみたくて仕方ありません。どなたかこの曲の楽譜をご存知の方はいらっしゃらないでしょうか?
何か情報がありましたら是非是非お知らせください。
よろしくお願いします!
2011年6月23日