前回、ブロードウッド・ピアノの中身についてお話しするとの予告を書きましたが、細かな機構の1つ1つの解説はとても長い長いシリーズになってしまうので、とりあえず外から見える部分のことをお話しましょう。
弦の張り方
現在のモダンピアノは弦の長さを保ちつつ楽器の全長をある程度抑えたいために、太い低音の弦と細い中音域以上の弦の一部が〔×〕の形に重なるように張っています。これを交差弦と称しています。アップライトピアノも対角線のように弦を交差して張ってあります。
それに対して、チェンバロをやフォルテピアノでは弦をまっすぐに張り、全ての弦が平行に張られていることから、平行弦とよばれる張り方をしています。弦の長さがそのまま楽器の長さになりますから細ながーい楽器になります。それには駒を分割して長さを緩和したりもするのですが詳しくはまたの機会に。
そしてここでプチ・ラバルマンやグラン・ラバルマンの話しもしたい!!とひらめいたのですが、それもチェンバロのお話しのときまで我慢してとっておきましょう。
さて、話しを戻して、このブロードウッド・ピアノは平行弦です。低音が真鍮、中音以上が鉄の弦です。まだ巻き線は使われていません。したがって低音の迫力はもう少し欲しい欲求を感じます。
平行弦は一本ずつが響版の上の或る位置を独占できるので、純粋な響きが感じられます。
また、このピアノはすべての音に対して弦が3本ずつなので、調律ピンもたくさん並んでいます。
いくつか見える鉄の部品
白い四角いものが弦の上に整然と並んでいるのが見えます。これがダンパーです。その間に円盤状の鉄の板がはめ込まれています。弦の張力の高い楽器はどんどん捻れが生じるので、いずれ捻れた船底のような形になってしまうのです。チェンバロやクラヴィコードなどでは数例を実際に見たことがあります。ですから、それを防ぐために張力に対抗する部品をつけなければなりません。
チェンバロ程度の張力であれば、胴体の構造と木枠や梁で支えられるのですが、フォルテピアノの張力はさすがに木材では支えきれません。そこで鉄の板を貼りつけたり、鉄の支え棒を何本も入れたり鉄枠にするなどの改良が施されていきます。
あぁっ!ここで産業革命のお話しがしたくなりましたが、それも別の機会にして今はこのピアノに集中!!
とにかく弦の張力を支えるために、ブロードウッドは堅牢な木枠と一部分に鉄を使用して歪みを抑えています。
フェルトを重ねたダンパー
ダンパーは音の響きを止める役目をしています。この楽器の場合は数枚のフェルトを重ねただけのもので、頑丈ではありません。従って音の響きがしばらく残るという感じです。この音が残る具合と、どのように音が止まっていくかが演奏に大変重要な影響を及ぼすので、自分の楽器ならば色々実験してみたい所です。
モップ型、差し込み式などいくつかの種類がありますが、モダンピアノでは弦に沿った窪みのある頑丈なダンパーがしっかりと弦の上から押さえつけるようになっています。
【お願い!】
ハンマーやエスケープメントについてなど、ピアノとしては重要な部分の解説はまたの機会にいたします。(え~、そんな大事なことを後回しにするの?とお怒りの方もいらっしゃるかと思いますが…)
それで何を先にするかと言うと、実はThomas Attwoodという作曲家のEllen’s song : Ave Mariaという曲の話しです。この美しい曲をこの楽器で伴奏したくなりました。
しかし、私はこの曲の楽譜を持っていません。探しても見つかりません!
シューベルトのEllen’s song : Ave Mariaはとても有名な曲ですね。この曲の歌詞はWalter Scottという人の「湖上の麗人」という詩をドイツ語訳したものにシューベルトが曲をつけています。
T.Attwoodは、その元々の英語の詩にシューベルトより15年早く曲をつけています。T.Attwoodの作曲家としての評価は多少意見の分かれるところがあるようですが、ブロードウッドのピアノの音色に乗ったこの歌を生で聴いてみたくて仕方ありません。どなたかこの曲の楽譜をご存知の方はいらっしゃらないでしょうか?
何か情報がありましたら是非是非お知らせください。
よろしくお願いします!