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ピアノ練習の一助に
ピアノの練習は、当然ながら指の練習曲やソルフェージュなどによる基本的なことをこつこつと重ねることが大切なのです。とにかく「基礎」をしっかりやるべきです。
その上で、私の教室でやっているユニークな練習を取り入れてくだされば、驚くほど演奏が活き活きしてくると思いますので、少しご紹介しましょう。
それと、その前提として「よく聴く」ということが必要ですからそのことも少しお話ししようと思います。
よく聴く
ピアノを弾く場合は必ず「音」が「耳」に「入ってくる」ので「聞こえている」ことになります。しかし、演奏をする際に必要な「聴くこと」というのは、「聞こえている」事とは大きく異なります。
※ 練習中に何を考えていますか?
こうたずねると、音符のことですとか、楽譜のことですとおっしゃるかもしれませんが、
……たとえば、今日は○○さんとこんな会話をしたなぁ…とか、
……たとえば、寒いからストーブをつけようかな…とか
……たとえば、明日の用意で○○を入れておかなくちゃ……とか。
練習しながら何かひらめいたりしていませんか?
このひらめきは「音を聴く」ことを妨げますから、この際「音楽に関係ないことは一切無視する」と心に決めてみてください。それでも人間ですからいくらかの余計なひらめきはあるものです。そんな時は「いま余計なことを考えているな」という自覚をしましょう。
このようなひらめきは「音楽とは関係ない人の声」や「映像」や「手順」などを脳に想像させてしまうため、「音」は遠くで鳴っているような意識になってしまうのです。
大切なのは「自分が出している音の中に潜り込むようにして、今そこで鳴っている音、これから鳴るであろう近未来の音を努力して全て聴き取る」ことなのです。
努力と書きましたが集中でも誠意でも熱心でもいいでしょう。言葉はどうであれ、音楽の練習をするからには、一音も聴き漏らさずに聴き取る練習を心がけるべきです。もし聴き漏らした音があったら、再度挑戦して今度は聴き取るように、また逃してしまったら次こそは聴き取るように…という意識で練習を重ねます。
ユニークな練習
譜読みが出来て、ある程度弾けるようになった時に行う二つの方法をご紹介します。最後に大事な【注意】を書きますので、必ず守ってください!!
1. ピアノの蓋の上やテーブルなど板の上で、トーン、トーンと響く音が鳴るように指を当てる練習。それとセットで指を板の上に乗せて板から離さずにグィ、グィ、と押す練習。1の指、2の指…と一本ずつやります。
前者は良い響きを出す練習で、こうやってからピアノを弾くと確実に音がしっかりして響きが増して艶が出ます。後者は、クレッシェンドやディミヌエンドなどで有効な指の入れ方の練習。クレッシェンドはだんだん深く押し、ディミヌエンドはだんだん押し過ぎを適度に戻すというような感覚です。
2. 1フレーズ程度をヒジを使って弾いてみる練習。腕を曲げてヒジで鍵盤を押します(すこし前かがみ状態)。1回目は試しにゆっくりめに動いてみます。2回目はインテンポに近くしてヒジで実際に音を出してみます。ヒジですからきれいな音はなりません、2つ、3つの隣り合った音が鳴ってしまいます。音のぶつかりが気になるようでしたら鍵盤に触る程度にして音を出さなくでもかまいません。シャープやフラットも正確に動いてください。
憶測も意図も何もなく、ヒジでただ音をなぞるだけでいいです。ただし、スラーやスタッカート、アクセントなどはまもります。片手でも両手でもやってみます。2、3度ヒジで弾いたら、あとはごく普通に指で弾きます。
それだけなのですが、あまりの違いに生徒たちは振り返って私の顔を見たり、「えー??」と声を上げたりです。
「聴くこと」ができる生徒は、あまりの違いに驚愕する程の反応を示します。
詳しい理由は書きませんが是非是非お試しください。正確にやっていただければ、その違いに驚くはずです。(文字だけでは理解し難いと言う方には直接お教えします)
注意
このどちらの練習もたくさんやるのは危険です。指や肩を痛めた経験のある人は程ほどにしてください。痛めていない人も、長い時間はやらないでください。1フレーズか2フレーズやったら普通に指で練習して、また必要だったらやるというように、途切れ途切れにやってください。
そしてどちらの練習も、最初は効果が持続しませんから、繰り返しやる必要があります。しかし、3日~5日もやれば筋肉が覚えてくれるので頻繁にやらなくてもよくなります。
補助練習として
ピアノを演奏するということは、技術だけでも感性だけでもできません。音楽的に楽譜を理解することや想像力で音楽を立体的にしていくことなども必要ですし、身体能力も必要です。どの楽器でも言えることですが、両手をバラバラに動かしているピアノの場合は特に、人体を総合的にすみずみまで使いこなす要求が大きいものです。ここに載せた2つの方法はあくまでも更なるステップアップの一助でしかありません。基礎を的確に身につけた上で、楽しく効果が上がる補助練習として行ってください。
実際にやり方体験をご希望の方は「問い合わせ」ページからご連絡下さい。
2013年5月9日
カテゴリー: 演奏表現
譜読み=面白さの発見
レッスンの中で「新たな曲」を頂いた時の第一歩的なことを書こうと思います。
今まで弾いたことも聴いたこともない曲を弾く場合、あるいは多少は聴いたことがあるけれど楽譜を見るのは初めてという場合、どこからどう手をつけていくでしょうか?
既に音楽を職業としているような人であれば、様々な(人には言えないほどユニークな方法も含めて)独自の取り組み方をお持ちだと思いますが、学習途中の人たちはある程度の規範の中にいるので、取り組み方の「正解」を模索しているかもしれませんね。
結局「正解」というのは一通りではないですし、正しいかどうかも決められることではないと思います。けれども、今まで色々経験をした者としての提案はできそうですので、その一部を書いてみましょう。
最近ではインターネットやCDで容易く曲を聴く事ができますから、演奏前に聴いてしまう人が多いかもしれませんが、その曲の解答として聴くことはお勧めできません。自分が読譜するよりも先に聴くと短時間で弾けるようになるかもしれませんが、音楽に取り組む者としては楽譜からの情報をまず優先する姿勢を持つべきだと思います。音楽の楽しさを楽譜から読み取れるようにならなければいけないからです。
日ごろから様々な曲や演奏を聴いていることは、環境や体験としてはとても重要なことです。そのことと、宿題や課題になった曲をその曲の「正解」のようにして聴き覚えてしまうこととは別次元の話しです。
それでは「正解」を知らずして、どうやって弾きこなしていくのかというと、楽譜を見て、拍子や調号、大体の音符の感じや終わり方などをざっと見たら音符を読んでいくのですが、その時私は、各部分での「面白さ」を探していくようにしています。
リズムが面白いのか、ハーモニーが美しいのか、肩透かしをくったような部分なのか、広がり方に特徴があるのか…などなど、その場その場で趣きがあると思うので、それを見つけていきます。(もちろん音符や記号は当然読めるとして話を進めています(笑))
そして、音符の塊の形=音楽のシェープと言えばいいかしら?音の塊が作るシルエットのようなものを音高や長さから考えて音の身振りを作っていきます。そうするとテーマが縮小したり引き伸ばされたりしたような部分も浮き出てきます。
このようなことを繰り返して、ジグソーパズルの1ピース1ピースを組み合わせていくように楽譜を紐解いていきます。
ジグソーパズルでなかなかみつからない1ピースがぴったりはまった時の快感ってありますよね。あのような感じが楽譜を読んでいるときにもあります。少しずつピースがはまっていき、形が現れて来るときの嬉しさは何とも言えない興奮があります。
それから作曲家が言いたかった言葉。もちろん音楽的な言葉ですが、それを自分の音として表すための試行錯誤。実験としてもいいでしょう。何度か実験してみてこの方法が良さそうだと探していくのも、とても楽しい時間です。
最初の一歩はだれでも「わけがわからない」ものです。3度目に弾くぐらいまでは「わからない」まま挑戦しなくてはならないでしょう。その間は少々努力も必要ですが、そこからできるだけ「面白いこと」を見つけてパズルを繋ぎ合わせて行けるようになると、それは努力ではなく遊びのようなものに変化していきます。
読譜より先に演奏を聴いてしまうと解答を見てから問題集をやるようなもので、新鮮な驚きや発見を経験する事が少なくなります。努力から遊びへの成長も期待できません。それに、聴いたものに似た演奏をしてしまうような弊害も生まれてしまいます。人の演奏のコピーでは全く価値がありません。
もちろん前述のように、この話しには少し注釈が必要です。できるだけ多くの演奏を聴くほうが、音楽的には成長するでしょう。けれども、それを唯一の正解にしてしまってはいけないという点です。
自分なりの演奏と完成度、そして「わけがわからない」所から「面白さの発見と表現」まで進めて行けることは貴重な能力です。生徒に新しい課題の曲を選んであげる時も、時間をかければ「この曲の面白さ」を自分でみつけられるかな?と思える曲を与えるべきです。
ところで、私がピアノを教え始めた20数年前、教えることの大変さと困難さを経験した私はこんなことを考えました。
「子供は手も小さいし、感性もまだ多様化していないのだから、子供らしく弾ければそれでいいのではないか」と。
ところがこれは大間違いでした。すぐにそれを訂正したので、現在は比較的良好な結果を得られています。
子供であっても丁寧に説明と実験を繰り返して、納得いくまで根気良く練習することで完成度は上がっていきます。子供のうちに高い完成度に慣れていくと、新しいことへの挑戦意欲や興味、知的な楽しみの持ち方を自身が作りだせるようになります。ハードルの高さを自分で保持することでやる気が出てくるのです。
もちろん対象となる子供の心や体の成長を見極めながら指導しなければなりませんが、難しい曲や大曲に挑ませて中途半端に終わるのではなく、多少余裕があるぐらいの曲で完成度を高めるということがその後の成長に効果的だと、今は思います。
まずは楽譜から「面白さ」を読み取る工夫をしていきましょう。
2012年4月16日
カテゴリー: 演奏表現
曲に物語をつけよう2
前回の続きで音楽に物語をつけようという試みです。
音は常に創造力と共に存在するのです。その実現のために簡単な物語やあらすじ作りが役に立ち、弾くことを作業化させないための強力な助っ人になってくれます。
あらすじを考える
「リスト:バラード第2番」を例にとってみましょう。
前回の「愛の夢」は少し詩的な作りにしましたが、こちらは絵本のようなあらすじにできます。
例えばこんなふうに。
暗い森の奥、灰色の雲と強風が渦巻く山に、魔物が住むお城がある。
なんとその城の塔には美しい姫が捉えられているではないか。
姫は窓から見える空や鳥や樹木に向かって、いつか自由になれるようにと願い歌う。
魔物の怖さと神秘さ、姫の美しさが対照的だ。
そこへ、姫の歌声を聞いた一人の勇敢な王子がやってくる。
魔物は上下左右縦横無尽に襲い掛かり、王子も必死で応戦する。
やがて長い死闘の末に倒れていったのは…魔物のほうであった。
勝利した王子はさっそく姫を助け出し、愛の二重唱を歌う。
そして幸せにくらした(とさ)。めでたし、めでたし。
といった具合です。
まったく私の自分勝手な物語作りですが、音楽に自分なりのリアリティを込めるのには効果的ではないでしょうか。音と技術のバランスを取るのにも大きな助けになります。
あらすじが決まると音や技術に対する要求も高まるので、自然に説得力が増します。特にフレーズを作る呼吸や音の距離感はこれによってかなり鋭くなり得るでしょう。もちろん聴力と指先を注意深く使わなくてはいけませんが。
あらすじ作りは音楽の楽しみの一つ
例え、歯が浮いたとしても、クサイ話しだったとしても、幼い話法であったとしても、音楽を盛り上げるのに有効な手立てだと考えています。そして音からイメージする物語つくりは音楽の楽しみの一つです。
レッスンの場などで、小さな生徒から大人までこのイメージ作りやあらすじ作りを試みますと、最初は恥ずかしそうにしていてもだんだんノリにノッて予想を超えた楽しみに発展することも多いです。演奏密度を濃くして、演奏を技術作業で終らせないために有効な手段ですので、多くの方にお試しいただきたいと思っています。
時にはあらすじにならないことも
中には物語やあらすじのつけ難い音楽もあります。
リストに比べたらベートーヴェンのソナタなどはまとまったお話しにはなりにくいかもしれませんが、かならず花火が打ち上がる場所があるのでそれを探すストーリーが考えられます。
主人公などがいなくて景色がずっと続いてしまうこともあるでしょう。その場合はその景色を見ている視点や色、温度などを感じていくといいと思います。ストラヴィンスキーには私は景色と時代を感じます。まるで彼が歩きながら聴いた音を曲にしているかのように、建物の音、工事の音、機械の音、人の喧騒、時には落ち着いた生活音などがそこここに聴こえて彼と一緒に歩きながら街の風景や美術館や劇場を見ているような気になります。
また、チェンバロ曲などではそのドラマ性を表すきっかけが、ロマン派などよりもずっとささやかなものであったり、たった一音だけ構成している和音から外れただけで何かが大きく変わることを必然的に表していたりすることもあります。声部の増減や2小節程度のリズムの変化などもきっかけになります。もちろんいきなりジャーンということもあります。描写音楽も多数ありますからそれなどは描写対象の身振りや動きを考えると楽しくなりますね。
2011年9月15日