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ブロードウッド・ピアノ
ブロードウッド社のはじまり
「ブロードウッド(Broadwood)」は、元々はチェンバロを製作していたバーカット・シュディの工房からスタートしています。シュデイの娘婿であるブロードウッドがこの工房を改名して1773年頃に創業しました。
シュディの工房のチェンバロは華やかで力強い響きが特徴でしたので、ブロードウッド社もその経験を受け継ぎ、音域を拡大して、音量も強く頑丈なピアノを作り上げていきました。イギリスのピアノメーカーの代表と言えるでしょう。同時代のイギリスでは、ほかにも数社のピアノ工房がスクエアピアノやグランドピアノを製作していました。ウィーンと並び、初期のピアノ製作において中心地だったのです。有名なクレメンティ社も、このブロードウッドのグランドピアノに似た楽器を製作しています。
ブロードウッド社は当初、スクエアピアノを作っていました。そのころまでイギリスで流行していたヴァージナルという楽器をどかしたスペースにそのまま収まるということもあり、今で言うアップライトピアノのような立場の楽器です。
その後1785年からグランドピアノを作り始めます。この楽器は、それまでより大型の5オクターブ半の音域を持ち、1810年には6オクターブへの拡大がなされました。イギリスを訪れたハイドンが弾き、後にはベートーヴェンに贈られて(5オクターブ半の楽器)最後まで所有していたことや、ショパンが所有していた3台のピアノのうちのひとつとしても有名です。
日本でのレプリカ製作
ところで、私の知り得た楽器ということでいえば、日本には博物館にある楽器のほかに、ブロードウッドのスクエアピアノは楽器製作家・小渕晶男氏が作られたものがあります。非常によく鳴ってくれて、弾いていて面白さを味わえる素敵な楽器です。
そして、昨年4月には、楽器製作家・深町研太氏の手による初期のブロードウッドピアノをモデルとしたグランドタイプの楽器が完成しました。1802年頃のピアノの複製だそうです。
木枠のみで鉄や鋳物のフレームは入っておらず、ダンパー部分に小さな鉄の支えが各セクション毎についています。ストレートに張った弦を押さえるダンパーは、差し込んだ何枚かのフェルトでささやかに弦に触るので、響きが残ります。5オクターブ半の音域のある楽器です。
出来たての頃はどちらかというとシャラーンという音がしていましたが、1年弾きこんだ今は木もよく鳴って、かなり頑丈な音になってきました。私もお借りして演奏させて頂いております。
日本では今まで展示物としてしか見たことがなかったので、このタイプの楽器が自由にコンサートに使えるというのはありがたいものです。もう少し年代が進んだ1800年代後半頃からのブロードウッド社の楽器は、アップライトも含めてかなりの台数が日本に存在しています。
打弦機構とペダル
当時のピアノの打弦機構(アクション)には、大きく分けてウィーン式とイギリス式という2種類がありました。
ウィーン式はより軽いタッチが得られ、軽妙な演奏や歌い方ができます。またイギリス式は重さを感じるタッチで、音の厚みと深い響きがあります。ウィーン式の代表はシュタインやワルターのピアノで、モーツァルトもワルターのピアノを購入していました。
ブロードウッドは後にウィーン式のアクションで製作を試みたこともありますが継続性はなく、やはりイギリス式のアクションで作り続けられました。現代のピアノもイギリス式の改良型です。ウィーンのピアノでは当時まだニーペダルといって、膝で突き上げるタイプのペダルを採用していましたが、ブロードウッド社ではフットペダルを開発して、現代のペダルの基を築きました。
ブロードウッド社を訪問した大音楽家たち
初期のブロードウッド社の訪問リストには、1791年フンメル、デュセック(ドゥシーク)、ハイドンをはじめ、クレメンティ、モシェレス、ウェーバー、ツェルニー、シューマン夫妻、メンデルスゾーン、ショパン、後に単独で来訪のクララ・シューマンなど…大ピアニスト・作曲家の名前が連なっています。
2011年4月26日
カテゴリー: 鍵盤楽器