躍動感のある音楽作り
レッスンで私が重点を置くことの1つに「楽譜の読み方」があります。
もちろん表情記号や楽語に気をつけるのは前提ですが、楽譜を自分の体に取り込むためには楽譜をどう読んだらいいかということです。ここでは小学生のレッスンという設定で例を書きましょう。
例えば、ドレミファソと5つの音が並んでいる場合、生徒たちは「こんなの簡単!」という勢いで指を動かすわけですが、そのときに体の奥のほうの筋肉からドレミファソという身振りを立ち上げようとは考えていないのですね。
躍動感のある演奏にするためには、ここがとても重要なポイントで、椅子に座って姿勢を正しているので簡単には伸びたり縮んだりできませんが、体の中で筋肉が躍動しているかどうかが演奏に大きな変化をもたらします。
先ほどの例で言えば、ドレミファソという音に従って少しかがんだところから背伸びして伸び上がるような動作を考えてみてください。それを座ったままで体の奥でとらえると、表面的にはせいぜい2、3センチの動きになりますが、背中やお腹や太ももあたりの筋肉が高音になるにしたがって緊張するような感覚が感じられると思います。
指の動きとともにその動作を感じていき、自然な音の高揚感を表現していきます。同じドレミファソでもシチュエーションが違えば違う動きとなるので、場面を設定しながらいろいろ試してみるといいでしょう。音の高低と強さやつながり具合を読み取って動きにしていきます。
その関連がわかったら、幼児が弾くような簡単な曲で筋肉の動きを何度か確かめて、それから現在挑戦している難曲などに応用するといいでしょう。
また皮膚感覚や触覚なども大きな影響を出せるものです。台風の風なのかそよ風が頬をなでているのか。目に見えない風を感じるように目に見えない音を感じさせてみようとか、ざらざら、ごつごつ、つるつるなどの触覚で音型やフレーズを感じることも大事です。音を味覚で感じるのも1つの方法だと思います。
五感がフル稼働した上に体躯全体の筋肉のエネルギーで曲を捉えていくと、無理なことはできなくなるため、おのずと自然で活き活きとした音楽になっていきます。
学習と実践の関連づけ
要するにこれはリトミックなのですが、リトミックやソルフェージュ、聴音、楽典など様々に学ぶ課題があり、実際には生徒たちはなかなかそれを演奏に結び付けられてはいないのです。
そこで、リトミックでの動作を座ったままどこの筋肉を緊張させるかとか、触れた感覚を簡単な音で人に伝えようとすると、学習と表現の関連を納得できるようになります。
まず音楽があり、それを体全体で表現していくのが演奏です。しかし椅子に座った姿勢では内的な筋肉を動かすしかないのでその感覚を少しずつ磨くと同時に、楽譜が要求しているものと一体となるように、考え方の舵取りの練習をしていけば上達していくはずです。
とにかくよく見る、よく聴く、よく考えて体全体で音を出そうとすれば、だんだんにすばらしい音楽が先生と生徒の共同作品として浮かんできますよ。それは本当に嬉しいことですね。
私もまだまだ試行錯誤な点もありますが、今後また役立つヒントを見つけていきたいと思っています。
余談ですが
今回はフォルテピアノのコンサート前ということで、鍵盤の扱いがモダンピアノと全く違いますから、私の手がフォルテピアノ用に変化しています。
レッスンでモダンピアノを弾くとやたらに表現が出るのに鍵盤にうまくはまらない感じで自分でも笑ってしまいます。鍵盤の幅も重さも跳ね返り具合も違うし、鍵盤を押したときの発音点も違います。腕の重さの掛け具合や左右の脇の空け具合や勢いの使い方なども違います。けれども、内的な筋肉の躍動感は激しさの差はあるもののほぼ同じです。この点はまたいずれ改めて書いてみようと思っていますのでご期待ください。