今年も生徒たちのコンクールに立ち会って、多くの人の演奏を聞くチャンスに恵まれました。それぞれに工夫をこらした演奏とトレーニングを積んできた熱演が繰り広げられて、聴き入ってしまいました。
コンクールの演奏は一発勝負で優劣が決まってしまいますが、奏者本人はもとより、奏者の成長とともに歩んでおられる先生やご家族の熱意と努力は膨大なものです。その努力が何とか実を結んで良い結果が出るようにと願わないではいられません。たとえそれが見ず知らずの学生であったとしても、私の生徒のライバルであったとしても。もちろん自分の生徒であれば尚更強い気持ちで、手に汗握りながら祈るような気持ちです。生徒の演奏中は努めて客観的に聴こうとしながらも、演奏直後にガッツポーズを決めたくなるぐらい心が傾いてしまいます(笑)。いずれの奏者に対しても、その懸命に演奏する姿を見ると、良心的な拍手を送らないではいられません。
余談ですが、コンクールの張り詰めた空気の中では、場合によっては拍手が許されないこともあります。けれども、許される限りは私ただ一人であっても拍手をします! 今回もそうでした(笑)。緊迫したコンクールだからこそ、熱演には拍手したくなったのです。
さて、その演奏を聴いていて思ったことを1つあげますと、演奏の優劣はともかく、楽器のツボを探り当てるのが上手い人と、ツボに当てられないまま最後まで行ってしまう人がいるというのが印象的でした。音楽についてもツボにはまっているかどうかは大きな分かれ目でした。もちろん音だけとか解釈だけでは合格にはなりませんが、将来性は感じ取れます。
鍵盤楽器の中でも、パイプオルガンやピアノは自分の楽器を持ち運ぶことが困難ですから、その会場にある楽器に如何に早く馴染むかというのが問題です。
もちろん楽器は一台一台個性が違いますので、その都度ちがうツボが存在するわけです。自宅で練習した指を信じていても、楽器が違うことによって機能を果たせなくなることもあります。「ツボ」と言っているのは、楽器の能力に即して少ない力で大きく広がる響きの良い音が出る弾きかたということです。音量が小さくてもよく立ち上がる音や、音量が大きくても割れずに倍音要素を含んで豊かに鳴る音などが、効率よく鳴らせる「身体と楽器との合致点」とでも言いましょうか。
私達演奏者にとっては、むしろ楽器の側がこのツボに当ててくれと要求してくるように感じられることが多く、楽器に教えてもらうというような気持ちになりますが、若い生徒たちは日頃から探すように心がけるべきだと思います。
まずは自宅の楽器でツボにはまった響きの良い音を出す練習をしましょう。全身と思考や集中力や創造力などありとあらゆる部分と機能を使わないとこのツボに命中する音を維持していくことができませんから、トレーニングが必要です。
時々、ピアノの先生方の中で、指や音符に注目してご指導なされるあまり、自然な呼吸や音の重みへの配慮が足りなくなる面を感じます。また、ごく近くで生徒と接していると、広い場所での音の鳴りに無関心になる面も感じられます。
このような見方にプラスして、楽器のツボ、フレーズごとの音楽のツボ、大きな一曲としてのツボ、そして自分から湧いてくる要求のツボを気にしながら演奏を組み立てると伸びやかで生きているような呼吸を持った音楽が生まれることでしょう。
私もまだまだ発展途上で試行錯誤の種は尽きないのですが、鍵盤楽器を弾かれる多くの方へのヒントとして、このツボを狙うことをお勧めしたいと思います。