レッスンの中で「新たな曲」を頂いた時の第一歩的なことを書こうと思います。
今まで弾いたことも聴いたこともない曲を弾く場合、あるいは多少は聴いたことがあるけれど楽譜を見るのは初めてという場合、どこからどう手をつけていくでしょうか?
既に音楽を職業としているような人であれば、様々な(人には言えないほどユニークな方法も含めて)独自の取り組み方をお持ちだと思いますが、学習途中の人たちはある程度の規範の中にいるので、取り組み方の「正解」を模索しているかもしれませんね。
結局「正解」というのは一通りではないですし、正しいかどうかも決められることではないと思います。けれども、今まで色々経験をした者としての提案はできそうですので、その一部を書いてみましょう。
最近ではインターネットやCDで容易く曲を聴く事ができますから、演奏前に聴いてしまう人が多いかもしれませんが、その曲の解答として聴くことはお勧めできません。自分が読譜するよりも先に聴くと短時間で弾けるようになるかもしれませんが、音楽に取り組む者としては楽譜からの情報をまず優先する姿勢を持つべきだと思います。音楽の楽しさを楽譜から読み取れるようにならなければいけないからです。
日ごろから様々な曲や演奏を聴いていることは、環境や体験としてはとても重要なことです。そのことと、宿題や課題になった曲をその曲の「正解」のようにして聴き覚えてしまうこととは別次元の話しです。
それでは「正解」を知らずして、どうやって弾きこなしていくのかというと、楽譜を見て、拍子や調号、大体の音符の感じや終わり方などをざっと見たら音符を読んでいくのですが、その時私は、各部分での「面白さ」を探していくようにしています。
リズムが面白いのか、ハーモニーが美しいのか、肩透かしをくったような部分なのか、広がり方に特徴があるのか…などなど、その場その場で趣きがあると思うので、それを見つけていきます。(もちろん音符や記号は当然読めるとして話を進めています(笑))
そして、音符の塊の形=音楽のシェープと言えばいいかしら?音の塊が作るシルエットのようなものを音高や長さから考えて音の身振りを作っていきます。そうするとテーマが縮小したり引き伸ばされたりしたような部分も浮き出てきます。
このようなことを繰り返して、ジグソーパズルの1ピース1ピースを組み合わせていくように楽譜を紐解いていきます。
ジグソーパズルでなかなかみつからない1ピースがぴったりはまった時の快感ってありますよね。あのような感じが楽譜を読んでいるときにもあります。少しずつピースがはまっていき、形が現れて来るときの嬉しさは何とも言えない興奮があります。
それから作曲家が言いたかった言葉。もちろん音楽的な言葉ですが、それを自分の音として表すための試行錯誤。実験としてもいいでしょう。何度か実験してみてこの方法が良さそうだと探していくのも、とても楽しい時間です。
最初の一歩はだれでも「わけがわからない」ものです。3度目に弾くぐらいまでは「わからない」まま挑戦しなくてはならないでしょう。その間は少々努力も必要ですが、そこからできるだけ「面白いこと」を見つけてパズルを繋ぎ合わせて行けるようになると、それは努力ではなく遊びのようなものに変化していきます。
読譜より先に演奏を聴いてしまうと解答を見てから問題集をやるようなもので、新鮮な驚きや発見を経験する事が少なくなります。努力から遊びへの成長も期待できません。それに、聴いたものに似た演奏をしてしまうような弊害も生まれてしまいます。人の演奏のコピーでは全く価値がありません。
もちろん前述のように、この話しには少し注釈が必要です。できるだけ多くの演奏を聴くほうが、音楽的には成長するでしょう。けれども、それを唯一の正解にしてしまってはいけないという点です。
自分なりの演奏と完成度、そして「わけがわからない」所から「面白さの発見と表現」まで進めて行けることは貴重な能力です。生徒に新しい課題の曲を選んであげる時も、時間をかければ「この曲の面白さ」を自分でみつけられるかな?と思える曲を与えるべきです。
ところで、私がピアノを教え始めた20数年前、教えることの大変さと困難さを経験した私はこんなことを考えました。
「子供は手も小さいし、感性もまだ多様化していないのだから、子供らしく弾ければそれでいいのではないか」と。
ところがこれは大間違いでした。すぐにそれを訂正したので、現在は比較的良好な結果を得られています。
子供であっても丁寧に説明と実験を繰り返して、納得いくまで根気良く練習することで完成度は上がっていきます。子供のうちに高い完成度に慣れていくと、新しいことへの挑戦意欲や興味、知的な楽しみの持ち方を自身が作りだせるようになります。ハードルの高さを自分で保持することでやる気が出てくるのです。
もちろん対象となる子供の心や体の成長を見極めながら指導しなければなりませんが、難しい曲や大曲に挑ませて中途半端に終わるのではなく、多少余裕があるぐらいの曲で完成度を高めるということがその後の成長に効果的だと、今は思います。
まずは楽譜から「面白さ」を読み取る工夫をしていきましょう。