ピアノを教えていてたびたび「才能」について考えさせられます。
もちろん私自身でも、もう少し別の「才能」があれば今とは違う立場にいたのかもしれないと思うと心がむずむずしてきます。そんな「才能」についてですが、論ずるのはかなり難しそうですね。真正面からすぐに結論の言える事ではないので、まずピアノを教えていて気が付くことをいくつか書いてみましょう。
才能に結びつく三つの要素--1.遺伝
第一に遺伝的な部分。次に環境。その上に親のかかわり方。この三つの大事な要素を順に書きます。
具体的に見ますと、遺伝的要素として体型や手の大きさ、腕の長さ、筋肉の強さなどがあげられます。これらの形態の優劣を論じるのではなく、その使い方や活かし方が人によって変わるということに注目したいのです。ピアノが弾けるように体を使う方法は、遺伝的な形態をみながら可能性を広げる方向に考える必要があります。
2.環境
次に環境についてです。音楽をすることによって誰かが笑顔になったり、誰かに誉めてもらえた体験は、その後の成長に大きく関わります。感動体験や自分なりの発見も喜びと結びついて膨らんでいきます。
また、クラシック音楽を聴いて想像力を駆使して親子で語り合っている子と、昨今よく目にする誇張した口調で殺伐とした話題を語るテレビや、破壊的な事柄をインパクトの強い方法で印象づけられている子とでは、自ずと体の動きも表現力も変わってきます。これも優劣ということではありません。親のバランスの取り方によって子供の表現力が変わるので、環境はとても重要だということです。
3.親のかかわり方
これは各ご家庭の背景が違いますから一概には申せませんけれども、基本的な人格は親子の信頼感によって育まれるということはどなたにも言えます。親ならば誰しも我が子の順調な成長を願うでしょう。であればまず赤ちゃんから生活習慣ができあがる3歳前後までの時期に、立派な人間になった時に必要となる、基礎を作ってあげてほしいのです。基本的な生活習慣や人との接し方、自ら考えたり知的好奇心を高めることなどです。母親の都合や思い通りにならないことも、親子の信頼感があれば子供なりに理解と納得をするものです。理不尽な我慢を強いるものではありません。そんなことをするといつか爆発してしまいます。必要以上に甘えさせる必要もありません。親が子を信頼して応援し、子は親を大きな味方として背後に感じながら歩き出せばいいのです。これから子育てをなさる方には是非とも頑張っていただきたい点です。そうすればいざレッスンだというときに、集中力があり、創意工夫に満ちて、何が必要なのかを考えることができる子供になっているはずです。
才能を開く能力
さて、前述のことを踏まえて、話を「才能」に戻しましょう。
もちろん天性というものがあって、向き不向きということもありますから、全員が全員音楽をやればいいということではありません。
でも、赤ちゃん達に楽しい音楽を聴かせると、まだ歩けもしないのにお尻をフリフリして手もユラユラと動かして踊るような仕草をしながらニコニコします。あるいは急にすやすやとおとなしく眠ってしまったりするでしょう。親としては「ウチの子は音楽の才能があるんだわ!」と言いたくなりますよね。特別な才能を持ち合わせていると早合点してしまいそうですが、実はほとんど全員がそのような動きや反応を示すのです(笑)。つまり、誰でもある程度の音楽的素養を持って生まれてきているのです。音楽は人間の根源的な表現であり、音は脳に直接影響しますから素直な赤ちゃんたち全員が何らかの反応をするのですね。
本格的に習うかどうかは、興味の対象や向き不向きということになりますから、もうしばらく様子を見てから決めたほうがいいと思います。
もし、音楽をやらせてあげたいと思った場合は、先ほどから申しますように音楽的反応を喜んだり誉めたりして、体もよく動かしてなめらかに動ける筋肉をつけ、創意工夫を楽しめる前向きな精神を肯定的に育てましょう。そうすると次のステップに進むトレーニングを受け入れ易くなって更なる成長が期待できるようになるのです。
敢えて「才能」を一面だけでも言葉にしようとするならば、実は誰もが持っていながらなかなか全開させられない可能性ということになるでしょうか。子供の場合は「体型」と「環境」と「ピアノ以前の親のかかわり方」によってその可能性が大きく変わってしまうのです。そのことをピアノ教室では毎日経験しています。
おそらく音楽以外でも同じ事が言えるでしょう。どんな事でも習得するためのトレーニング期間があります。その間、前向きに乗り越えて更なる挑戦を楽しむこと、自分をよりよく活かそうと努力すること、まずこの能力を持たなければなりません。それによって意識的にであれ無意識的であれ、ある程度の努力が積み重なった時に「この人には才能がある」と思うのだと私は考えます。
参考までに
クラシック音楽は脳にも情操教育にも良いと言われています。クラシック音楽で使われている楽器の生の音は実際には耳で聴くことのできない低周波(20ヘルツ以下)、高周波(2万ヘルツ以上)の倍音まで出しています。これが脳に作用して感情のコントロールにも良い影響があると言われています。
CDやレコードなどは20ヘルツ以下と2万ヘルツ以上を聴こえない音としてカットしてしまうため、もちろん聴かないよりはずっといいのですが、生の楽器にはかないません。最近は2万ヘルツ以上も入れる技術があるようですが、再生側の家庭のスピーカーがそれに対応できませんから現実的ではありません。伝統文化とか嗜みとしての習い事というだけではなく、子供の場合は特に脳に対する良い影響がありますので、どんな楽器でも生で演奏して楽しむことをお勧めします。残念ながら電子ピアノやデジタルピアノではこの倍音は出ませんのでご注意ください。
今回は「子供の才能」について書きましたが、大人が才能を開くことも当然あります。大人もあきらめないでください!私も含めてよりよい自分の活かし方を求めてまいりましょう。